仲介手数料無料 仲介手数料無料

会員登録 0

浴槽内の自殺で、ユニットバス交換費用、賃料減額分の損害について賠償責任が認められた事例

1 事案の概要
 賃貸人Xは、平成13年6月、Aに対し、所有していたアパートの2階部分の201号室(専有面積23.55㎡)を期間2年、賃料月額8万5,000円、敷金17万円、共益費2,000円等の約定で貸し渡した。その後、本件賃貸借契約は、平成15年6月および平成17年6月に更新され、Aは、本件貸室を継続的に使用していた。
なお、Aの父であるBは、平成13年6月、本件賃貸借契約上の債務について連帯保証したが、平成16年6月に死亡した。
Aは、平成18年10月28日ころ、本件貸室の浴室において、いわゆるリストカット等の手段により自殺した。自殺後、Aの相続人である母C、兄Dは、相続放棄の申述をしたことから、姉であるYが単独相続した。Xは、新たな賃借人の募集はしなかった。
Xは、賃借人Aの自殺により損害を被ったとして、Aの相続人であるYに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求権に基づき、クリーニング費用および内装造作取替費用として150万円、本件貸室は社会通念上使用し得ない状態になったことを理由とする賃料等相当額の逸失利益として330万円の合計480万円の損害があるとし、その一部である250万円の損害賠償を求めて提訴した。

2 判決の要旨
 裁判所は、以下のように判示し、Xの請求を一部(142万円余)認容した。
(1)Aは、本件賃貸借契約に基づき、Xに対し、原状回復義務を負っていたところ、これに付随する義務として、自然減耗以外の要因により目的物件(本件貸室)の価値が減損することのないように本件貸室を返還すべき義務を負っていたものと解される。そして、社会通念上、自殺があった建物についてはこれを嫌悪するのが通常であり、その客観的価値が低下することは当裁判所に顕著な事実である。そうすると、Aには本件賃貸借契約に基づく原状回復義務に付随する義務の債務不履行があったといわざるを得ない。

(2)見積書の内容をみるに、本件自殺が行われた浴室以外の部屋に係る補償費用やエアコンの交換に係る費用が含まれており、それらは本件自殺とは無関係のものであり、また、クロスの貼替費用などは通常損耗によるものと考えられるから、損害と認めることはできない。そうすると本件自殺と関係が認められるのは、本件自殺が行われたユニットバスの交換費用のみである。YはAの兄によって洗浄したから損害はないと主張するが、いかに洗浄しようともそれに対する強い社会的嫌悪感をぬぐうことは困難であると認められる。そして、証拠によれば、その額は55万6,500円および消費税2万7,825円と認められ、これに反する証拠はない。そして、この費用はいわば本件貸室の修繕費用であるから、これをさらに経年減価するのは相当ではない。
したがって、58万4,325円をもって、内装造作取替費用に係る損害とみるのが相当である。
(3)本件アパートの貸室にはなお新規の賃借人が現れる状況にあるものの、Aとの本件貸室の賃料月額8万5,000円は本件自殺当時には客観的相場よりも割高となっていたと認められ、5万6,000円が本件貸室の客観的賃料相当額として相当であると考えられる。自殺による賃料の低下の幅は時の経過により縮減していくものと考えられる。そして、本件全証拠をもってしても、本件貸室の賃料額が本件自殺によってどの程度低下したかを判断することは困難であるから、民事訴訟法248条により、最初の2年間については1ヵ月あたり2万5,000円、次の2年間については1ヵ月あたり1万円の低下が生じたと認めるのが相当である。
そうすると、本件貸室明渡しの翌日(平成18年11月7日)から本件口頭弁論終結時(平成22年11月1日)までの賃料減額分の損害としては、48ヵ月分84万円をもって相当と認める。

3 まとめ
 本件では、原告の賃貸人は、クリーニング費用および内装造作取替費用として150万円、賃料全額の空室月分(提訴日現在で38か月分)の逸失利益330万円の合計480万円の一部である250万円の損害賠償請求をしていたが、上記のように、浴室以外の部屋に係る補償費用やエアコンの交換に係る費用は本件自殺とは無関係のものとして認められず、また、賃料の逸失利益分についても、客観的賃料相当額を認定した上で、その一部に限り認められている。賃貸住宅における自殺をめぐる損害賠償請求の事例の一つとして参考にしていただきたい事例である。

Copyright (C) 株式会社 三宝